1 [特別寄稿] 事業型NPOの要諦

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一橋大学大学院商学研究科教授 谷本 寛治

(1)事業型NPO

事業型NPOという名称は、私が数年前から使っているうちにいつのまにか定着して使われるようになってきた。それはNPOを類型化するに当たって、活動領域から区分するのではなく機能から3分類したことによる。

  1. <慈善型>NPO:寄付やボランティアをベースに、ローカル/グローバル・コミュニティでチャリティ活動を行う団体、
  2. <監視・批判型>NPO:企業や政府・国際機関の活動に対する監視・批判活動、アドボカシー活動を行う団体、そして
  3. <事業型>NPO:有料・有償による社会的サービスの提供、情報の分析・提供、コンサルティングといった活動を社会的事業として行う団体、である。表1を参照。
    もっともこの区分は典型であり、現実には慈善型NPOが部分的に収益事業を行なったり、親NPOの傘下に異なるスタイルの事業体を組み入れたりするなど様々な形態で活動している。
NPO区分横軸にA,B 及び 内容区分を縦軸に 1.~ 9.を表にしました
表1 NPOの3区分
NPO区分A,B,C 及び 内容区分 1.~ 4. A:慈善型NPO B:監視・批判型NPO C:事業型NPO
1.成立時期 A:伝統的 B:主に60年代後半~70年代以降 C:主に80年代~90年代以降
2.活動内容 A:慈善活動 B:企業、政府活動の監視・批判、要求 C:社会的サービスの提供、調査・情報提供
3.主たる資金源 A:寄付 B:寄付 C:事業収益
4.企業・政府との関係 A:独立/コラボレーション B:独立 C:独立/コラボレーション


ここ数年の間に、わが国ではNPOという言葉があっという間に市民権を得て、新聞などにもそのまま使われ通用するようになってきた。ただアメリカでは「NPO」が日常の用語として一般に使われているわけではない。
NPOとは法人格を指す用語であり、“社会的活動を行う市民の組織”とストレートに結びつけて理解されてはいない。またわが国ではNGOを国際的なボランティア活動を行う団体と理解し、国内的な活動を行うNPOと使い分けているのも独特である。ヨーロッパでは、日本でいうNPOはNGOと呼ばれている。
NPOの多様な活動について一般の人々の認識は広がってきているが、しかしまだまだ誤解も多い。
NPOとは“慈善活動を行うボランティア・グループだ”、また“利益を上げてはいけない”と理解している人も少なくない。しかしながらそのイメージは現状を反映している面もある。2万近いNPO法人の実態を見ると、半数余りが福祉領域に携わる小さな団体であり、有給スタッフも少なく予算規模も小さい。ボランティア・グループと変わらないものも多い。
社会的なサービスや財の提供を有料・有償で行い、一つのビジネスとして成り立たせている事業型NPOはまだ数も少ないし、また成果を上げている団体も少ないことから、一般の認知度は低くても仕方ないであろう。

(2)伝統的NPOと事業型NPO

ここで改めてNPOの成立要件について確認しておこう。NPOには次の3つの要件がいる。

  1. ボランタリー・アソシエーション:人々の自発的な意志によって形成され、政府から独立した組織であること。
  2. 社会的使命:ローカル/グローバルコミュニティにおける社会的課題の解決に取り組むことをミッションとすること。
  3. 非配分原則:寄付や事業活動で得た収益をメンバー間で再配分してはいけないということ。
    NPOの活動領域、その社会経済に果たし役割は多様化している。とくに事業型のNPOは、NPOとしてこうした3つの基本要件は変わらないものの、伝統的なNPOのイメージとはかなり異なった特徴をもっている。それを表2にまとめてみた。
     
表2 伝統的NPOと事業型NPOの比較
NPO区分A,B 及び 内容区分 1.~ 9. A:伝統的NPO B:事業型NPO
1.活動 A:チャリティ B:社会的事業(社会的サービス・財の提供)
2.体制 A:ボランティア・グループ B:法人化、専門化
3.組織 A:官僚的、トップダウン組織 B:ネットワーク的、分権的組織
4.スタッフ> A:ボランティア・スタッフ B:プロのスタッフ
5.行動原理 A:博愛主義 B:効率性(市場競争、 コア・コンピタンスへの意識)
6.志向対象 A:自組織志向 B:顧客志向
7.マーケティング活動 A:受動的、マーケティング意識はない B:マーケティング努力(資源 獲得、サービス提供において)
8.資金 A:寄付・会費中心 B:事業収益中心
9.企業・政府との関係 A:独立的 B:企業、政府とのコラボレーションの試み


一目して分かるように、事業型NPOは、まさに社会的な事業を担う一つの“ビジネス”として理解される。企業と異なる点は、社会的ミッションと収益の非配分である。
事業運営上、企業経営の方法を積極的にも取り入れるべきことは多い。
事業を継続的に責任もって取り組むには、高いマネジメント能力が求められる。市場や社会から経営資源を獲得し、社会的サービスや財を提供する事業体として、効率的な活動を行い、ステイクホルダーに対してアカウンタビリティを果たして行かねばならない。
また市場競争にさらされるわけであるから、当然のことながら競争力のある(質の高い)サービス・商品の開発、営業が求められるわけである。

アメリカのNPO業界では、80年代後半頃から「ソーシャル・アントレプレナー」という言葉が盛んに使われるようになっている。NPOは、変化する市場・社会に適応し、独立した資金を獲得するためにも、その運営においてマネジメント意識を取り入れ、商業活動的な発想を取り入れていかねばならない、ということである。
そのキーワードとして「企業家精神」の必要性が言われている。ただしそのことは事業型NPOに対してのみならず、慈善型NPOにあっても同じことが求められる。例えば、寄付やボランティアを集めるに際しマーケティング的取り組みが重要であることや、社会的信頼を得るためにもきちっとしたガバナンス体制を整える必要がある、ということにおいて。
つまりNPOにもビジネス的な方法と発想が求められるということである。

(3)NPOの評価基準

企業家精神をもってNPOをマネジメントしていくということは具体的にどのようなことに留意する必要があるのか。NPO評価の1つのケースを通して見てみよう。アメリカには、寄付・助成金を提供しようとする企業や財団、個人にNPOの運営が健全であるかどうかを評価しその情報を提供する評価団体がある。その代表的なものとしてBBB Wise Giving Alliance(NPO)があり、ここではその基準を取り上げてみよう。
もちろんこれはアメリカにおけるNPOの評価基準であり、日本の状況とは異なる部分もある。しかしながら、こういった基準をみることを通して事業型NPOのマネジメントのポイントを考えるヒントは多い。
そこには4つのポイントがある。

  1. 「ガバナンス」:
  • 理事会は活動やスタッフを監視すること、
  • 理事会は少なくとも5人以上の理事から成り過半数の理事が参加する理事会を年3回以上開催すること、
  • 有給理事は1人あるいは10%未満であること、
  • 理事やスタッフは事業上の取引関係と無関係であること。
  1. 「効率性」:
  • 少なくとも2年毎に組織のパフォーマンスを確認し将来の方向を確認すること、
  • その評価報告書を提示すること。
  1. 「財務」:
  • 少なくとも支出の65%がプログラム活動に使われていること、
  • ファンドレイジングの費用は得た資金の少なくとも35%を越えないこと、
  • 一般に公正妥当と認められた会計原則に従って財務報告書を整え公開すること、など。
  1. 「ファンドレイジング」:正確で信頼に足る情報をもって行うこと、
  • アニュアル・レポートを提示すること、
  • 事業活動によって得た収益を開示すること、など。

とくにわが国のNPO業界では、ガバナンスやアカウンタビリティに対する意識が非常に弱いと言える。
とくに理事会が形式化していたり、情報開示が不十分であったりと、NPOの運営においてガバナンスのあり方が重要視されていないことが多い。

例えば、著名人が名前を連ねるだけで機能していない理事会、1年一回の形式的な会合や代理人出席、理事に正確な情報が与えられていない、あるいは理事の不勉強・低いコミットメント、など。

また会員資格を極端に絞り、会員総会を形骸化させている団体も問題がある。アカウンタビリティに欠ける不透明な体制や、ワンマン体制をチェックするメカニズムをもっていなければ、ローカル/グローバル社会から信頼を勝ち得ていくことなどできない。とくに事業型のNPOにおいては、その事業内容、資金の流れや管理について透明性を確保し、情報開示していくことが重要である。

(4)今後の課題

一方で、資源の乏しいNPOにとって、きちっとしたマネジメント体制を整える余裕がないという現状がある。それはアメリカでも同じであるが、大きく異なるところは、マネジメント・サポートの団体(NPO)が数多く存在し、様々な形でNPOの活動を支援していることである。
わが国ではそういったマネジメント・サポートの中間支援団体はまだまだ未成熟である。
しかしこれにはいろんな方策が考えられる。地域社会には、システム・エンジニア、会計士、大学人などたくさんの専門家が居住している。その中にボランティア精神をもっている人たちをつないでNPO支援に生かしていけるマッチング・システムをつくっていくことが望まれる。
また団塊の世代が定年期を迎えようとしている。定年後NPO活動に関心をもつ人も増えている。彼らの潜在的なパワーを引き出し、その専門的知識や経験を生かしていける仕組みをつくっていくことも今後の大きな課題である。
わが国でNPOが定着し社会から信頼を得ていくためにも、こういった条件整備は火急の課題と言えよう。

※本稿に関連する谷本の文献紹介

  • 「ソーシャル・アントレプレナーと新しい社会経済システム」下河辺監修・根本編『ボランタリー経済と企業』日本評論社、2002.9.
  • 「企業とNPOのフォア・フロント―「NPOと経営学」その新しい課題―」奥林他編『NPOと経営学』中央経済社、2002.10.
  • 『企業社会のリコンストラクション』千倉書房、2002.11.
  • 「NPO/NGOと政府・企業のコラボレーションの設計」『社会・経済システム』(社会・経済システム学会)、第24号、2003.10.
  • 「コーズ・マーケティングのすすめ」『宣伝会議』2004年1月号、2003.11.
  • 「企業とNPOの組織ポートフォリオ」『季刊 家計経済研究』((財)家計経済研究所)、第61号、2004.1.

 


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