3 [特別寄稿] 「協働」で拓く新しい市民社会

イー・エルダーのロゴマーク

NPO法人イー・エルダー

ここから本文です。

 


NPOサポートセンター 理事長 山岸秀雄

1 今なぜ「協働」なのか

NPO法(特定非営利活動促進法、1998年成立)施行されてから、約5年半が過ぎた。NPO法人格の取得団体数は17,000団体を超し、現在も毎月500団体近くが新たに誕生している。
NPO法によって、市民運動、市民活動、市民事業など、市民による自主的な活動は社会的に認知されることとなった。NPO法は福祉、環境、まちづくり、生涯学習、青少年問題、国際交流等の社会問題を解決し、社会システム変革の担い手として、市民を表舞台に登場させたといえる。日本はNPOという道具を21世紀社会に向けて選択したのである。例えばここ数年、国のNPO予算が数百億円に達したことは、NPOへの期待の現れであるともいえる。

このように、行政、企業に続く第三セクターとしてのNPOへの注目が高まるにつれ、「協働」がNPO、行政、企業の最重要課題のひとつとなり、その具体化に向けた政策が次々に実現されようとしている。日本社会が直面している社会問題、たとえば、福祉・高齢社会、環境、まちづくり、失業等の社会問題は、いずれも市民、行政、企業、の3セクターによる「協働」という新しい協力関係と社会システム転換によってしか解決できない課題であるという認識が高まってきたのである。具体的な協働の実現を繰り返しながら、理論も実践も改良され、協働論は発展を遂げてきた。だが協働には平坦な道よりも困難な道のほうが多く、様々な課題に遭遇しながらの前進だったといってよいだろう。

なぜ平坦な道ではなかったのか。協働の実現は、社会全体の仕組みそのものを変革する問題であり、同時に各セクターが自己改革を進めながら取り組まなければならない大きな課題だからである。その課題とは、第一に中央集権の長い歴史を背景にした「官」優位の制度の問題であり、第二に行政の意識の遅れという壁である。協働による社会システムの転換という重要な局面にあって、制度の改革なしに、あるいは遅れたままの基盤の上での協働の推進にはおのずと限界があった。行政の中でも自治体の意識の遅れは地域によってかなりの温度差があり、自治体ごとに著しい違いを見せているのが実態である。これは社会的課題に対する緊張や危機感の反映であろう。

2 NPOサポートセンターの「協働」への取組み

NPOサポートセンターは1988年7月の訪米調査を機に、日本でのNPO活動を開始し、93年に日本最初の中間支援組織として誕生し、96年9月に全国連絡会を結成した。NPOと行政との「協働」の実践的ルール化、システム化とアドボカシーの実現を軸に活動を展開している。これらを簡単に紹介しよう。

(1)「協働」のルール化、システム化
NPOの自立・事業化にとって重要な課題は、行政との対等なパートナーシップに基づく「協働」をどのように実現するかということである。NPOにとって行政からの委託事業の比率が高い現状のなかで、あるべき姿での協働の実現は難しいが、対等な協働の確立が急務となっている。協働のための検討委員会が国・自治体双方で何百回も設置されながらも、その成果が有効に機能しているとはいえない。NPO側は中間支援組織を中心に行政との積極的な交渉機会をもつと同時に、協働のルール化、システム化の努力を重ねてきた。それは情報の発信・公開、協定(コンパクト)、契約、評価という「協働」のためのルール化とシステム化の作業である。

(2)アドボカシー活動の展開
NPOの生命線はアドボカシー(政策提言運動)である。
行政に対する政策提言と世論形成を同時に実現しようとする運動スタイルは、日本でも定着してきたが、NPOの社会的役割――社会問題の解決と社会システムの変革――を実現するためには、既存の社会勢力との摩擦を克服したり、意識を変えたりする作業を覚悟しなければならない。NPOが受身の姿勢でいることは社会での活動領域を狭め、大方の行政側の発想であるNPOを安価な下請け先にとどめ、最後にはその下請け先にもなれずに消滅する運命にあるからである。
NPOサポートセンター連絡会は、1999年6月に緊急地域雇用特別交付金に対する提言――「新たな社会理念への投資」、2001年8月に国土交通省への提言――「社会資本マネジメントへの提言」、4省協働協議会の運営、生涯学習、NPOによる失業者訓練等々、相次いで提言の成果を上げてきた。

3 NPO地域プラットフォームの活動から「協働」へ

NPOが「成熟した市民社会」の主要な担い手になるためには、社会や地域で市民、行政、企業の3セクターに加え、より多様で多分野、広域の協力・連携を図り、総合的な問題解決のコーディネーターになる必要がある。タテ型社会をヨコにつないでいくことこそ、NPOの得意とするところである。こうした役割を示すことによって、NPOは他セクターとの対等なパートナーシップを組む可能性を広げることができる。多様な社会資源を再結集する中心軸にNPOが位置することを社会が認めるようになるからである。
NPOサポートセンターは、NPOプラットフォーム(舞台、基盤)理論を軸に、NPOと大学の連携を軸とした「産官学民」による地域づくりを進めている。

首都圏だけでも
「アーバンコミュニティ・プラットフォーム」(東京都、明治大学、他)、
「大学機能をもつ「産官学民」地域プラットフォーム」(東京都、足立区)、
「常磐線NPOプラットフォーム」(千葉県、江戸川大学、他)、
「北関東プラットフォーム」(栃木県、白鴎大学、他)、
「ぐんま地域づくりプラットフォーム」(群馬県、高崎経済大学、他)、
「相模原・町田大学・地域連携プラットフォーム」(神奈川県・東京都、麻布大学、桜美林大学、他)、
の6つの地域プラットフォームが実施した。

NPOサポートセンターはNPOと大学という地域資源を中心にプラットフォームを形成し、新しい地域づくりに参画することによって、新しいコミュニティ像の創出とNPOの提言力・コーディネート力を具体的な形として社会に示している。そして、同時に、NPOプラットフォームを通じてNPOが地域づくりの主体者になり、行政との対等な協働を実現しているのである。
これらを支えるのが、NPOの情報プラットフォームである、NPOの総合情報サイト・NPORT(エヌポートhttp://www.nport.org/)である。今後はGIS機能を導入することによって、NPOプラットフォームをさらに強く支えることをめざしている。NPOプラットフォームは、新しいコミュニティづくりの戦略であるといってもよいだろう。

4 おわりに

「協働」の問題は、今新しい局面を迎えている。自治体が「指定管理者制度」を導入できるようになり、図書館、公民館、博物館、児童館など公共施設の民間への運営委託が進められる可能性が高まったのである。すでに始まっている委託契約の内容をみると本来の経費の1/5~1/10という乱暴な委託費を提示してきており、協働の大切な原則である正当な対価というには程遠い額を示していることもある。この問題が「協働」の試金石であることは確実であろう。
成熟した市民社会をつくることがNPOのゴールである。今われわれにはゴールにむけた叡智と実践が試されているのではないだろうか。

【プロフィール】
山岸 秀雄 (1946年生まれ)
(特活)NPOサポートセンター理事長/明治大学客員教授。白鴎大学客員教授。(株)第一総合研究所、(株)第一書林の代表。法政大学社会学部卒業、日本電信電話公社(現NTT)を経て現在に至る。1988年の訪米以来、日本でNPO(民間非営利組織)、非営利・独立型シンタンクづくりなどの新しい実践活動に入る。93年に日本最初のNPO支援組織・NPOサポートセンターを設立。NPOサポートセンター全国連絡会事務局。国土審議会専門委員、中央教育審議会小委員会委員、他。編著に『アメリカのNPO──日本社会へのメッセージ』、『市民がつくる地域福祉』、『NPO・公益法人改革の罠』他。

NPOサポートセンターはこちらから。(新しいウィンドウで開きます)

NPOの総合情報サイト「NPORT」はこちらから。(新しいウィンドウで開きます)

 


ページはここまでです。

<<このブラウザでは、左側ナビゲーションメニューを印刷致しません。>>