5 [特別寄稿] 事業型NPOへの期待

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CAC-社会起業家研究ネットワーク 代表 服部篤子

1. 事業型NPOの意義

近年、「NPOとは」と一言でNPOの特徴を語ることはなくなった。NPOの活動目的、活動分野は多岐にわたり、法人格を持つNPOの数は勢いよく増加していく。多様な社会の担い手として登場したのであるから、自然な成り行きであろう。そして、数年前からNPOの分類に、「事業型NPO」というカテゴリーが使われるようになった。
事業型NPOは、社会の課題を事業を行うことで解決しようとするNPOであり、NPOの資金調達のために収益事業を行ない、活動の運営資金に充当していた従来のNPOよりも、もっと積極的に「事業」をとらえている。

一つの事例を示そう。NPO法人RE機構は、使い捨てカメラの内蔵乾電池を「リサイクル乾電池」として販売する団体である。この団体の設立目的は、社会貢献リサイクル乾電池の梱包作業を福祉作業所に委託することにより、障害者の就労を支援し、障害者に独立性・多様性のある社会参加への道を開くことにある。また、扱う商品がリサイクル乾電池なので、従来は廃棄されていた資源の有効利用という意味での社会貢献も果たすことができる。
パッケージに1年ほどで土に戻るという環境にやさしいコーンスターチを成分とした素材を用いるという工夫も凝らしている。
何度となく挫折を経験し、軌道に乗せるところまできた。活動を始めて10年後にNPO法人化したことで、乾電池の残量を測る試験データに大学からの協力を得るなど、周囲の支援や理解が変化したという。RE機構は、月間30万本ものリサイクル乾電池を売り上げる。今後は、作業を発注する福祉作業所を増やしていくことや、新たな商品開発を検討している。

RE機構の例に見られるように、事業型NPOは、弱者を包括した市民社会の実現(「ソーシャル・インクルージョン」)に有益な手段を提供することを目的とするものが多いように思われる。また、これまで見過ごされていた資源に新たな市場価値を見出そうとしている点にも特徴を見出すことができる。さらに、このような事業型NPOの成功事例が増えれば、社会性の高いビジネスに対する市民の理解が深まっていくであろう。

2. 事業型NPOの課題

事業型NPOへの社会に対する役割や期待が高まる一方で、それらがいくつかの課題に直面しているのもまた事実である。組織によって直面する課題は様々であるが、以下の3つの点を目にすることが多い。

・ 人材
一般に、NPOの運営は、フラットな組織を好み、スタッフの自主性を重んじ、また、ボランティアの支えによって成り立ってきた。運営会議は、スタッフ全員の合議制で進められる、というNPOも少なくない。営利企業の持つトップダウンでスピードある意思決定、合理的、効率的な経営とは対極にある。
しかし、事業型NPOは、事業の成功を活動の成果と目指す以上、営利ビジネスと同様の事業計画、マーケティング、営業、交渉などが要求される。そのため、効率性を重視し、専門性の高い人材を歓迎する。それは、ボランティアの敷居を高くすることにつながる。活動内容に賛同し、参加を希望するボランティアとのバランスをどのようにとっていくのか、一つの課題となる。

  • 活動の長期化
    企業の社会的責任が叫ばれる昨今、営利企業の中には、社会性の高い商品やサービスを提供する企業が増えてきた。例えば、数十年前、食の見直しを掲げたNPOが無農薬や有機野菜の宅配を始めたとしよう。その後、健康志向の高まりの中、外食産業は、素材にこだわった農作物を提供し、スーパーは、有機野菜を取り扱い、消費者に選択の幅を広げてきた。このように、事業型NPOの活動が長期化すると、社会性の高い営利企業やビジネスチャンスを求めて参入した営利企業と市場競争をすることになる。NPOは、立ち上げ期を経て、成熟期に入った頃から、NPOとしての戦略や存在意義を見直さなければならない段階がでてくるであろう。
  • リーダー
    NPOの活動には、情熱と志しをもったリーダーが存在する。リーダーは、スタッフの意欲を高め、ミッション(活動目標)の達成へと向かう。対して、スタッフは、報酬よりやりがいと生きがいを重視して活動をする点もNPOの特徴である。しかしながら、事業型NPOの場合、ビジネスモデルによっては、営利企業と同様の商品やサービスを提供することになる。
    例えば、障害者や外国人、ホームレスなどの就労支援を掲げるNPOで飲食店を経営している場合、対外的には、一般の営利企業が展開する飲食産業と同様に映る。確かに自ら望んで職に就いているスタッフの自己実現はなされているのであるが、外部からの評価が見えにくい中で活動が長期化すると、スタッフのボランタリーな精神を維持し、スタッフを引っ張っていく組織の求心力が必要となる。これらは、マネジメントの問題よりもむしろ、リーダーの哲学や信念に依拠すると考えられる。

3. 社会的起業支援の高まり

本稿を締めくくるにあたり、事業型NPOの普及支援が高まっている現状に触れておきたい。
事業型NPOを取り巻く支援環境に2つの顕著な変化をみることができる。

1つめは、NPOに対する融資の積極化である。
近年、NPOへの融資に取り組み始めた地域金融の動きは、事業計画を明確に持った事業型NPOの資金調達に大変有益であろう。今後、地域金融とNPOとの信頼関係を構築し、地域活性化に両者で取り組むことによって、地域の人々の意識や社会的なしくみを変えていくことにつながるのではないだろうか。事業型NPOが、地域にイノベーション(変革)をもたらすことを期待したい。

2つめは、多彩な起業支援である。
近年、各地で起業支援を目的として、行政、大学、NPOなどが開催するセミナーやコンテストが盛んとなってきた。例えば、川崎市では、男女共同参画センターが主催する「女性起業セミナー」を受講すると、市の融資申請資格を得ることができる。また、三鷹市では、2000年から「ビジネスプラン・コンテスト」を2003年から「SOHOベンチャーカレッジ」を開催している。
いずれも、市の第3セクターである株式会社まちづくり三鷹が主催する。ビジネスの事業化にあたってコンサルテーションを受けることができ、さらに、ビジネスコンテストに参加希望する人は、事前に、専門家に相談することができる。いずれも無料のサービスである。新たな産業の創出を通じて地域の活性化を図る施策として位置付けられているからである。多くが株式会社を設立するが、NPO法人も育つ契機となっている。

また、NPO法人ETIC.は、2002年から、ソーシャルベンチャーを対象とした「ビジネスプラン・コンテスト」を開催し、特に、若者の起業を支援している。我々CAC-社会起業家研究ネットワークでは、今夏、「社会起業家サマースクール」を実施した。ソーシャルビジネスを起こすために、アイデアの段階から、アイデアをブラッシュアップする手助けをメンター(アドバイザー)が参加者の問題意識にあわせて行うという研修プログラムである。なかには、既にNPOを立ち上げ、新たな課題に直面し、その問題解決に取り組んだ参加者もいた。

このような資金調達及び人材育成の取り組みは、いずれも、1)身近な問題発見を通じてビジネスに発展させること、2)地域に根付いたビジネスの普及を図ることで地域の活性化を目指すこと、3)個人が社会の問題に取り組む姿勢を後押しすること、そして、4)個人の起業家精神を育成することを、支援するものである。社会性の高い起業支援の高まりが事業型NPOの普及に一役買うことと確信している。 服部篤子

服部篤子(はっとり あつこ)様のご紹介
CAC-社会起業家研究ネットワーク 代表
奈良県生まれ。広告会社勤務を経て、大阪大学大学院国際公共政策研究科前期課程修了。企業フィランソロピーの研究を行う。国際科学振興財団専任研究員、総研大スコープ・プロジェクト研究員などを経て、2001年CAC:Centre for Active Communityを共同設立。CACでは、社会起業家の普及を図るために、日米英の事例研究の他、研修プログラム“社会起業家ゼミナール”、オンラインジャーナル“ソーシャル・イノベーション”の発信を推進している。
跡見学園女子大学、お茶の水女子大学、明治学院大学非常勤講師。(専門は、非営利組織論、企業フィランソロピー、社会的起業論)。

(共著) 「英国での試み‘コンパクト’-政府とボランタリーセクターとの新たな関係」、『公益法人』公益法人協会

 


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