4 [特別寄稿] アメリカにおけるNPOの現状-事業型NPO

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東邦学園大学 経営学部 助教授 岡部一明

1.事業型NPO

非営利活動の中にビジネスを取り入れたNPO、ビジネスにより社会問題に対応するNPOで、アメリカではこの事業型NPOのタイプが一般的である。このようなことを実現できる背景として、「市民のNPOへの信頼感の高さ」と、「非課税、税制控除、予算などの行政のバックアップ」があげられる。
 
また、市民が行政よりもNPOやマーケットを信頼しているために、事業型NPOが成功しやすい土壌となっている。ここらは日本とは正反対であり、かつ日本では、「ボランティア≒NPO=ピュアな存在」という誤解から、例えば福祉や介護の分野で活躍する事業型NPOに対して「障害者を食いものにして」という反発の声があがってしまいがちである。新たな世論形成を行うことで、対社会的な誤解を解く必要を感ずる。
 
アメリカのNPOは日本のNPO法人(特定非営利活動法人)と異なり、包括的な概念である。日本では、公益法人(財団法人、社団法人など)、学校法人、宗教法人、社会福祉法人、更生保護法人など民法及び個別法に基づく既存の非営利的法人制度があった。そこから漏れた小規模な市民活動団体の法人制度としてNPO法人制度が1998年にできたのである。
  しかし、アメリカでは、日本の既存の公益的法人を含めすべてがNPOとして一くくりにされている。

2.NPOの種類と団体数   163万団体

アメリカのNPO制度は包括的であり、税制控除資格から様ざまに区分され複雑である。内国歳入法(Internal Revenue Code)は、NPOの形態を少なくとも30に分類している。その中でも特に典型的なNPOとされ、数も多いのが同法「501条(c)(3)」に規定された団体である。734,000あり、公益性が高く税控除の特典も厚い。これに隣接して「501条(c)(4)」に規定された団体が140,000ある。税特典は劣るがロビー活動やビジネス活動がある程度自由にできる。
 
これに「教会」(354,000)と主にメンバー内の福利を目的とした「共益的」団体(399,000)を加えて合計163万団体となる。

要NPOの分類と団体数(1998年)税法上の分類 団体の種類 団体数 501c3 慈善(文化、教育、福祉、科学等) 734,000 501c3 宗教(教会) 354,000 501c4 市民運動団体 140,000    その他 399,000 合計 1,627,000

3.政府に匹敵するアメリカのNPO(第三セクター)

(1)収入源の区分と割合      事業収入約40%
米NPOの収入源として最も大きいのが4割近くを占める事業収入である。年代的な増減を見ると、1977年から1992年までの間に事業収入は6.3%増加した(インフレ補正後の数値)。政府資金は5.4%増、寄付2.7%増であり、NPOの事業収入の増加が最も大きいことがわかる。

入内訳(1997年)
(Independent Sector, The New Nonprofit Almanac & Desk Reference, Jossey‐Bass Inc., 2002)
寄付       19.9%
事業収入    37.5
政府資金    31.3
その他      11.4

さらに、この数字には出て来ないNPOのビジネス活動がある。多くのNPOが営利の子会社をもっている。税控除団体の資格を維持するため、大きくなり過ぎた収益事業部門を、新たに営利の子会社を設立して移行させるのだ。こうした動向にはやはり充分な統計がない。

(2)予算規模
アメリカのNPOセクターの総収入は6648億ドル(1997年)であり、これは同年の日本の国家予算78兆円に匹敵する。アメリカの連邦政府予算は1兆6526億ドル(98年)であり、NPOは国予算の40%の規模で、別回路から公共的サービスを提供していることになる。個人、企業、財団などからの民間寄付は1025億ドル。税として政府に納められる額の6%が寄付としてNPOに渡っている計算だ。

DPに占める各セクターの大きさ(1994年)
NPO     3,874億ドル   6.9%
企業   4兆3,617億ドル  78.0%
政府     8,422億ドル  15.1%
合計   5兆5,913億ドル  100%

(3)雇用数         全労働力の10.8%
NPOセクターに雇用されている有給スタッフはフルタイムに換算して1090万人であり、これは連邦、州の公務員752万人よりも多い。行政セクターに匹敵する規模をもつことになる。NPO雇用者数はアメリカの全労働力の10.8%(有給スタッフのみだと7.1%)を占める。NPOが有力な雇用創出源ととらえることは誤っていない。

4.活発なNPOビジネス

 一般的にNPOがビジネスを行なう場合、次の3つの形態がある。

  1.   .本来事業のビジネス - NPOの本来の非営利目的活動での収益事業
  2. .本来外事業でのビジネス - バザーなど一時的な資金集め活動
  3. .分野の異なる事業だがなおかつNPOの本来目的に沿うもの

(1)本来事業のビジネス

敢えて説明するまでもなく無数の実例がある。例えば、学校、博物館、美術館、地域診療、保育園、子ども会の自然林間学校。これらは対価を受けるサービスであり、非営利団体によるビジネス活動である。しかもこの場合、彼らは資金集めのため関係のない収益事業をやっているのでなく、彼らが目的とする非営利活動の本来の趣旨の活動を収益活動として行なっている。

それに対し、そのサービスを有料化してビジネス化することは不可能な場合も多い。貧困者へのソーシャル・サービス、災害救助NPO活動など多くのNPO活動分野がそのような料金の取れない(相手に支払い能力がない)「市場」で活動している。そしてまさにこのような「市場の失敗」局面があることに、非営利法人の発生理由があるのであって、その「対価」を消費者からでなく、寄付、財団助成、政府補助金などとして背後から確保するビジネス・モデルをとる。

(2)本来事業以外での資金集め活動

一般にファンドレイジング(基金集め活動)と言われるものである。バザーでホットドッグを売ったり、中古品を販売したり、チャリティー・コンサートを開いてお金を集める活動である。

この分野でのアメリカNPOの創造力にはすさまじいものがあり、そのアイデア、ノウハウを紹介する本も多く出ている。軽いギャンブルさえ取り入れる。例えばラッフル(くじ券)の販売。景品は地域のお店などから寄付してもらうことが多い。ビンゴと呼ばれる一種のギャンブルゲームを挙行し、資金を集める場合もある。ギャンブルを禁じている州でも、先住民族居留地や非営利団体だけには限定的な資金集めギャンブルを認めているのが普通である。資金集めアイデアの変わり種の極は、ボランティアを刑務所に閉じ込めて「保釈金」を要請することによる寄付募りである。実際、2000年11月に実際にカリフォルニア州バークレー市で行なわれた青少年スポーツ支援のための資金集め行事は、市長、警察署長その他約30名を市留置所に閉じ込め、一人当り1000ドルの「保釈金」を市民に募る、というものである。

(3)分野の異なる事業だがなおかつNPOの本来目的に沿うもの

1、2の中間の位置を占め、かつ最近「社会起業」運動の流れの中で目覚しく伸びてきているのが3の形態である。例えば知的障害者によるケーキ工場の運営を考えてみよう。ここでNPO側の本来の非営利目的は知的障害者の自立支援であって、決してケーキを一般消費者に提供することではない。ビジネスはケーキ工場でもリサイクル店でもレストランでも何でもよかった。そのビジネスを運営し就労することを通じて障害者が少しでも社会的経済的に自立していけるようにするのが目的だ。究極的には本来非営利目的の達成をめざすが、その手段としてビジネス活動を利用する。
 
障害者への福祉サービスのために、何もビジネスを行なわなくともリクリエーション活動を行なってもよいし、職業訓練講座を開いてもよい。実際これまではそのような方法による障害者支援が中心だった。敢えてここに「本当のビジネス」を組み込んだところにこの非営利ビジネスの特色がある。ビジネスを起こすこと、その中で実際に働くことこそが、人間の自立化の基本であり実質であるという認識、労働を人間の存在にとって基本におく姿勢がある。

5.NPOのビジネス活動と税制

本来非営利目的事業に関連した収益活動が課税されないのはもちろんだが、本来外の収益活動についても「相当な活動(Substantial Activities)」にならない限り認められている。「相当な活動」(本来目的外ビジネス)を行なった場合は、その収入には一般法人税と同率の税金が課される。

このようにNPOも一定の限度内で収益活動が認められている。問題はその収益がどう処理されるかである。配当などでその団体成員に収益が分配されるとNPOではなくなる。NPOであるからには、あくまで収益がそのNPO事業に再投資されなくてはならない。逆に言うと、内部分配しなければ収益をあげてもNPO性を否定しない。

この「非分配の原則」がNPOの本質的規定だとの理解がほぼ共通の認識となってきており、多くの州のNPO法もこれを採用している。この規定に影響を与えたのはアメリカ弁護士協会やアメリカ法律協会が作成した1964年版「モデルNPO法」である。その第2条はNPOを「その収入または利益のいかなる部分も会員、理事または役員に分配しない」団体と規定している。

念のために言うと、役職者も含めてNPOスタッフへの給与はこうした「利益の分配」にはあたらない。事業を行うにはNPOでも有給スタッフが必要であり、その人件費は正当なNPO活動費である。もちろん、これが不当に高いと倫理的な問題にはなる。例えば1990年に、共同募金会の全米組織であるユナイテッド・ウェイ・アメリカのアラモニー会長が、年間計46万3000ドルの高額給与など奢侈生活が批判され辞職に追い込まれた。

 また、内国歳入法501条c3の認定団体(申請すればほぼ認定される。日本の厳しい制度と異なる)への寄付金は、寄付をする企業や個人は税制控除を受けることが出来る。

その他、事業型NPOの法的経済的側面について、詳しくは岡部「アメリカにおける非営利ビジネスの展開」(『東邦学誌』第31巻第1号、2002年6月)を参照されたい。(新しいウィンドウで開きます)


岡部一明様のご紹介
東邦学園大学経営学部地域ビジネス学科 助教授。1950年栃木県生まれ。
NPO論や自治体、市民社会のガバナンスについて研究されてしています。
1979年カリフォルニア大学自然資源保全科卒業後、環境シンクタンク勤務、
フリージャーナリスト、日米NPO勤務を経て、1992年からサンフランシスコを
拠点に現地のNPOやコンピュータ事情を調査し、日本にレポート。
2001年より現職。

主な著書:
「サンフランシスコ発:社会変革NPO」(御茶ノ水書房)
「インターネット市民革命」(御茶ノ水書房)
「社会が育てる市民運動-アメリカのNPO制度」(社会新報ブックレット)
おもな共著:
「地域ビジネス学を創る」東邦学園大学地域ビジネス研究所編(唯学書房)
「アメリカのNPO」山岸秀雄編(第一書林)
「市民社会とまちづくり」伊藤滋編(ぎょうせい)

 


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